「スポーツにおける安全管理」 この報告は以下の要項で2015年に開催されたものです。

                 要   項

■目 的

スポーツ事故の発生を未然に防ぐために配慮すべき事、万が一発生した時の対処方法など、「安心してスポーツを楽しめる環境」を構築するために必要な知識を習得し、スポーツに携わる方々と共有化を図り、地域スポーツの更なる発展の一助とする。

■主 催

スポリティファイン(総合型地域スポーツクラブ)

■後 援

公益財団法人 スポーツ安全協会 北海道支部  厚別区スポーツ推進委員会 もみじ台体育振興会連絡会

■日 時

平成27年8月2日(日)17:00 ~ 19:00  受付 16:45から  

■会 場

もみじ台管理センター 2階 大会議室   厚別区もみじ台北7丁目1-1  Tel:011-897-7431

 

■内 容

講義と質疑応答

 ◇テーマ スポーツ活動における安全配慮

 ・スポーツ事故におけるリスクマネジメント

 ・活動管理者及び指導者の法的責任

 ・その他

 ◇講師   公益財団法人 スポーツ安全協会 北海道支部

  事務局長 倉  隆久 氏

  東京海上日動火災保険株式会社 東京本部 営業二課課長 小宮 常正 氏

 ■対 象

ポーツ活動の運営に関係されている方、指導者の皆様、テーマに興味があり、スポーツの普及活動に携わってみたいと思っている方々。

 

8月2日(日曜日)「スポーツにおける安全管理」研修会が開催されました。ご報告します。

 

       この記録(編集)は(株)石塚計画デザイン事務所の蔵田恵さんにお願いしました。  

■□□ 誰もが安心してスポーツを楽しむために  ■□ 

 スポーツ活動を主催するものとして安心してスポーツを楽しめる環境をつくるには、安全であることが大前提となります。事故の防止するために配慮すべき事、残念ながら発生した場合の適切な対応など、リスクマネジメントのあり方をを中心に「スポーツ安全協会 北海道支部」の全面的なご協力の下、研修会を開催する事が出来ました。

 多くのスポーツに携わる方々の出席を得て、一緒に学習(講義と質疑応答)しました。地域スポーツの振興に役立てていければと思っています。 


◆開催にあたり 理事長 谷島 俊勝


 

  実際何か起こった時には運営している私たち自身の責任問題になる-

 

 今日は夏祭りの夜の花火の前に、勉強をしていただきたい。

スポリティファインは小学生から高齢者を含めて自分の力にあったスポーツ運動に親しんでいただき、健康づくりを行い、それを地域のまちづくりの一つにしたいと活動を始めた。これまで、実際子どもに参加してもらったり、初心者のピンポンなどを企画し、ピンポンが全く初めてだという人も参加している。ただ、少し心配なのが、ねんざなどのケガ。実際何か起こった時には運営している私たち自身の責任問題になる。

そういう勉強が必要だと思い、関係ある皆さんに一人でも多く参加していただける形で研修会を開いた。今日はどうぞよろしくお願いします。

 



講師    公益財団法人 スポーツ安全協会 北海道支部

           事務局長    倉  隆久 氏


研修風景Ⅰ  講義する倉氏、片山氏(右)
研修風景Ⅰ  講義する倉氏、片山氏(右)

 

 -これらの事例から、リスクマネージメントへ

     の対応が重要だいうことがいえる- 

 

 公益財団法人スポーツ安全協会北海道支部事務局長の倉です。私はもともとは保険屋なので、肩に力を入れないで話を聞いてほしい。北海道体育協会を退職し、2年前にスポーツに関係した仕事をしたいと、この協会に入った。

スポーツの事故について、以前なら「先生のせいではない、子どもが悪かった」で済んだが、最近ではそうはいかなくなっている。

事故に対する考え方について説明し、最後に保険の話をしたい。     

 

 皆さんの記憶に新しいのは札幌ドームでのファールボールの事故だと思う。昔であれば、病院に行ってシップをし、翌日球団からのお見舞金で終わるが、今はそうではない。裁判の一審では日本ハム球団が有罪となり、賠償金を支払うことになった。

 本州のとあるまちでの事例。まちの町内の運動会に、役所に依頼された体育協会が参加した。そこで不幸にも子どもに雷が直撃した。裁判で雷は予測できるとして、地元体育協会が約3億円の賠償を命じられた。協会では用意できる最大限として8千万円をすぐに出したが、団体は解散処置になった。不足は行政が対応したそうだが、行政だといっても支払いは難しかっただろう。

 去年8月美香保球場で野球をしていたら、歩行者の男性の胸にボールが当たり、裁判の寸前まで行ったこともあった。その後の対策として、野球をしている時は道路に警備を付けることで理解を得て和解に至ったそうだ。

 これらの事例から、リスクマネジメントへの対応が重要だということがいえる。あまり硬く考えないでほしいがそれなりにお金をかけて、保険で対応できるように準備してほしい。裁判になると、個人や民間では賠償が支払えない。行政でも対応は難しい。

 

 では、詳しくは東京海上日動火災保険の片山さんから説明して貰います。 


 講師 東京海上日動火災保険株式会社   東京本部

      課長     片山 裕一 氏


研修風景Ⅱ
研修風景Ⅱ

 

   -時代の変化-

 みなさんこんにちは。東京海上日動火災保険株式会社の片山です。スポーツ安全保険の営業の推進、事故の相談のほか、本日のような事故を防ぐ研修を全国で行っている。少しでも日ごろのみなさんの活動に役立てるようスポーツ安全保険の事故例を中心に話したい。

 事故はゼロにはできないが、減らすことはできる。事故は毎年増えている。今までは子ども同士がぶつかったりケガをしたりしても、「一緒に遊んでいたのだからしょうがない」「教えられていたらけがもあるだろう」という時代だったが、今は厳しい親もおり、指導者が見ていなかったから責 任をとれという親もいる。世の中の流れも変わってきている。 


研修会風景Ⅲ
研修会風景Ⅲ

 

  -事故の事例-

 スポーツ時の事故の例と原因として挙げられるのは、骨折、ねんざ、むち打ち、打ち身、突き指などがある。熱中症は本州では多くなってきている。水分をたくさんとればいいということでなく、それ以前にバランスのいい食事や塩分の摂取が必要といわれている。今まで自分たちが知っていることだけでなくいろいろな事例がある。墜落、食中毒などの事故もある。食中毒は暑い時期に多いが冬にも多い。加熱不足でなることもあるし、夏には持参したり頼んだりした弁当の食中毒多い。

 

   -事故が発生する大きな6つの原因-

 ではどのような事故が起こるのかというと、大きく6つの事故がある。

活動中の事故」でいうと、バスケットやバレーで突き指、ねんざ、「施設欠陥による事故」ではバスケットゴールの移動式のものがしっかり固定されず動いてぶつかりケガをしたとか、バスケットゴールがすとんと落ちてケガをしたなど、管理点検不足のための事故。また、「往復中の事故」「送迎中の事故」がある。スポーツクラブに自転車で行く間の事故も増えて来ている。

1年くらい前に、兵庫県で小学生が高齢の女性とぶつかり、不幸にも寝たきりになってしまった事故では、9700万円の支払いが発生した。一部保険に入っていたが、自己破産などしなければならなくなった。最終的には小学校5年生に対しての責任は、親が責任をもつことになる。

自転車と歩行者の接触事故はかなり多くなっている。歩いている高齢者との事故が非常に多い。クラブの行き来にも十分注意が必要だ。特に夏休みの発生が多いので注意してほしい。

「指導管理ミスの事故」としては、まだ慣れていないのにヘビーなトレーニングを行ったためにケガをしたということが多々ある。「用具の整備不良による事故」では、整備されていなかったためにケガをした時に誰が責任を負うかということ。体を動かして楽しく健康になるために運動をすることが目的だが、何かが起きたときは誰が責任を取るのかということがクローズアップされている。それは法律上の賠償責任にのっとり責任を取る必要がある。賠償ということは、民法にも書いてあるように、相手に対価を賠償するということになる。

 

     利用者自身の原因によるものとそれ以外の原因-

 スポーツ時の事故例と原因ということで、事故発生には2通りの考え方がある。利用者自身の原因によるものとしては、「移動中の事故」「健康管理不足」「知識不足」「準備不足」という原因がある。一方、それ以外の原因というのが、まさに「指導者の判断ミス」「施設及び用具の整備不良」「天災」「移動中の事故」「事故発生時の応急処置不備」などがある。今日は利用者自身ではなく、それ以外の原因の事故についてお話したい。


研修風景Ⅳ
研修風景Ⅳ

 

   -それ以外の4つの事故原因-

スポーツ活動における事故の実態について、事故原因4つと事故例を抜粋した。

 1つは技術指導が正しくないことが原因の事故で、過度の練習による事故、入念な準備運動などが不足したことによる事故、指導者の経験不足が原因による事故、適切な場所で練習させなかったことによる事故がある。

 2つめは現場管理が正しくないことが原因の事故で、球戯中の対物事故、監督が行き届かなったことによる事故、設備の欠陥や用具の整備不良による事故がある。球戯中の事故は多い。ファールボールが近隣の家の窓ガラスを割ったということはよくある。しかし同じ家のガラスが何度も割れるというのはいかがなものか。賠償責任で責任をとるということはもちろんだが、ネットを高くしたり、ボールを打つ場所を変えたりするなどの対応をせずに同じところにボールが飛んで行くと、被害者も許せなくなる。同じ場所でつまずいて転ぶならそこに問題があるということを考えてほしい。

 3つめは、事故予防が万全でないことが原因で起こる事故。車が多いので、遠回りでもこちらの道を通ってと指導することは事故予防になる。通学路と同じような考え方で、アクシデントを未然に防ぐために、クラブヘ来る道順なども考える必要がある。

 4つめは、発生後の対応が迅速でないことが原因で起こる事故。大丈夫かなと少し休んでいる間にどんどん具合が悪くなることもある。本人が休んでいれば大丈夫といっても、誰かがちゃんと見ていれば体調変化に応じて次の手を打つことができる。ここを特に注意してほしい。対策が遅れたという場合、多額の賠償が発生する。体調が悪くなって死に至ることもある。最初の対応を迅速にしてほしい。

 


研修風景Ⅴ
研修風景Ⅴ

 

  -賠償責任の根拠・・・基本は民法に規定-

  (大きくいうと3つの賠償責任がある)

 次に賠償に対する知識について説明する。相手とのトラブルが起きれば、法律上の賠償責任がネックになる。賠償責任の根拠の基本は、民放の規定になる。民法第709に、「故意または過失により、他人の権利を侵害したものは、これにより生じる損害を賠償しなければならない」とある。インストラクターが間違った指導をしてケガをした場合、両親などに訴えられたら対応が必要になる。

 また、特殊な不法行為責任という民法715「使用者は、被使用者の事業を行う際に第三者に加えた損害を賠償しなければならない」というものがある。例えば施設の従業員等が起こした加害事故について、従業員の使用者(地方自治体や企業等)が責任を負う場合がある。例えば私が加害事故を起こした場合、私が当事者になる。でも仕事中であれば雇っている会社にも使用者としての責任があるということ。

 土地工作物責任という、民法717「工作物の設置や保存に瑕疵があって第三者に損害を与えた場合は、占有者は賠償責任を負う(占有者に責任がない場合は、所有者が責任を負う)」というのがある。頻繁に起こる訳ではない。工作物の設置や保存に瑕疵がある場合で、例としてレジャー施設等の施設が原因で第三者が損害を被り、同施設の所有者(=経営者等)が責任を負う場合、と書いてある。この場合は、施設所有者が責任を負う。ところが、施設に責任はなかったがケガをしたという場合は、そこを管理していた人が責任を負う。例えば体育館の管理は市が一括し、それを使ってみんなが指導していた。付属設備には問題なかったがケガをしたという場合に、所有者の責任もない場合、それを借りて使っていた使用者が責任を負うということになる。大きくいうとこの3つの賠償責任がある。

 土地工作物責任では、床がはがれてガムテープをはっていたところで転んでケガをした、この場合所有者の責任になる。床がはがれていて使ってはダメと所有者がいっていたのに、使っていいよと言っていたなら、所有者ではなく、使用者に責任があることになる。

最近よくいわれるのは、「債務不履行責任」「契約に基づく安全配慮義務」がある。スポーツクラブに入って来て家に帰るまでは安全に配慮するというというのは安全配慮義務になる。また例えば、施設のドアの締まりが悪く指を挟んだという場合は、安全配慮義務違反になる。施設側の安全配慮義務違反というのはよく言われている。

 「特殊な不法行為責任」、「土地工作物責任」、「安全配慮義務」についてはよく覚えておいてほしい。今は誰の責任だ、誰が指導したという、世知辛い時代になって来ているのが現実だ。 


     リスクの洗い出し、分析評価、対処、効果検証・フィードバック-

 リスクマネジメントというのは、リスクの洗い出し、分析評価、対処、効果検証・フィードバックの手順を一巡させることだ。いかに多くのリスクを想定できるかが鍵になる。この体育館のどこが危ないかを、いつも特定の人が見ていたとしたら、人間の見方は一つなので対応が不十分になる。他の人を含めたくさんの眼で危ないところやリスクを洗い出すことが大切だ。ドアの下に金属むき出しのところがある、人がたまりやすい場所と出入口が同じで事故が起きかねないなど、危ない箇所やリスクの分析をして評価をし、ドアの下にパッキンを付けることで相手にぶつからないようにするとか、開けたらどんとぶつかるドアにバネを付けるとか、出入口を変えるとか、対処することで事故が減ったかを検証するし、それを繰り返すことが大切だ。またリストの洗い出しは、期間を決めて月に1回実施するとか、点検箇所をA体育館からB体育館へ変えるとか、視点を変えて洗い出しをやってほしい。


研修風景Ⅵ
研修風景Ⅵ

 

  -保険支払事故の状況-

 どのくらい事故があるのか、事故例を含めて紹介すると、平成25年度の傷害保険の加入数は約927人、そのうち保険適用は約17件。100人に2人は何らかのケガをしている。入院通院別の件数では、15人に一人は入院を伴う大きなケガをしている。年齢別事故発生件数をみると、発生件数が多いのは、1019歳が約41.8%の比率になっている。ここを減らすことを考えていかなければならない。入院は110日間が61.1%になっている。通院は110日が約半分になっている

 

  - 活動内容別の事故の発生率の大きい10種目   

 活動内容別の事故の発生率の10種目がまとめられている。アメフトが一番多い、ジボール、ラグビー、柔道、ホッケー、バスケットボール、レスリング、硬式野球、バレーボール、自転車競技と続く。これを見ると球戯が多くなっている。その中でも突き指、ねんざなどが多い。

 賠償責任保険の支払いでいうと、賠償を行った6920件のうち、対物が6685件である。スポーツ安全保険では、スポーツジムの行き来も含めて事故が発生した場合に支払いを行う。

 特に多い事例は、活動中の対物事故だ。球戯中の対物(ガラス等)、対人事故が多い。一度事故が発生したら再発防止のためにどうするかを考えることが必要だ。指導中に多い事故は、適切な場所で練習をさせなかったことによる事故、過度の練習をさせたことによる事故、監督が行き届かなかったことによる事故、指導者の経験不足が原因による事故が多い。往復中の事故では、自転車での事故が多い。

 突然死ということも、平成25年で42件発生している。年齢別に見てみるとシルバーが多いということだが、4049歳が5件、5059歳が5件発生しており、高齢者以外でも突然死は起こる。スポーツ安全保険では突然死にも対応をしている。ほとんど他に例はないと思う。

 

       保険金支払い事故の状況のまとめ-

 まとめとして、スポーツ安全保険に置ける保険金支払い事故の状況を整理した。

・少年期のスポーツ活動での傷害が最も多く、成長期に行われる少年スポーツの指導にあたる場合はより一層の配慮が必要である。

・球戯での事故が多発している。

・権利意識の高まりによる損害賠償請求が増加している。

・指導者への損害賠償請求が特に増加している。

・練習の場所、適切な人数の指導者、個人の体力差、当日の体調、環境などへの気配りが必要である。

・高齢者以外の年齢層においても、スポーツ活動が引き金となり突然死が発生することがある。

・スポーツを行う際には、入念に準備運動を行うなどして、急激に体に負担を与えない。

・体調不良時には運動を行わない、また、させない。

 事故が発生した時には、スポーツクラブだけでなく当事者も訴えられる。以前は学校でのいじめは学校の責任だったが、最近では先生を個人的に訴える例もある。ケガをした人は指導者、スポーツクラブ、誰を訴えようがいい。しっかりした準備が大切になる。また、目を離した時に他の指導員が事務室にいたのであれば、人員に余裕があり監督者を増やすことができたのに対応しなかったことによる安全配慮責任違反という責任が問われる。 



研修風景Ⅷ
研修風景Ⅷ

 

   -「1:29:300」-

事前対策の検討として、まずはヒヤリハット情報の定期的収集がある。「1:29:300」という法則がある。一つの重大事故に対して必ず29の軽微な事故があり、その背景には必ず300個のハッとしたことがあるという法則だ。ハッとしたことをみんなで分析して減らすことが、29の軽微な事故を減らし、重大事故を減らす。それがリスクの洗い出しであり、ヒヤリハットの定期的収集。事故が起きる前の危ないなということを予測してみんなで話し合って対処する。ぜひ皆さんで300といわず、どういうところが危ないかを話し合い、危ないところは善処して直して事故を防いでほしい。

 また対処策の検討、優先順位付けも大切だ。予防策を講じ、そのうえでリスクを転化、すなわち保険加入することを検討する。いずれにしても一定のコストはかかる。個人、施設などによりカバーする保険が違うので、いろいろな角度から準備をするということを覚えてほしい。

 スポーツをする人はぜひスポーツ安全保険への加入を検討してほしい。スポーツを始める時に何か事故への対応策あった方がいいと考えて始めた保険であり、日本では一番大きな保険。このような準備をして、皆さんにスポーツを楽しんでもらうことが一番だと考えている。 


 省略


研修風景Ⅶ
研修風景Ⅶ

 

   -事例の紹介-

 いくつか事例を紹介したい。

 スイミングスクールの生徒で3歳の男子が、植物人間状態になってしまった例がある。事故の状況は24歳児コース14人を2人の指導員で指導中、溺れている被災に気付かず、指導終了後にプールの底に沈んでいるのを発見、救急措置、病院対応をしたが、間に合わず障がいを負ってしまった。事故の原因は、指導員の安全配慮義務の倦怠。示談金として約8千万円の賠償金を支払った。この事例は安全配慮義務違反で眼を離し、安全にプールの活動を行えなかったということになる。

 少年野球チームにおいて、試合終了後、過酷なペナルティ練習を行い、児童が熱中症で倒れ、その後、多臓器不全により死亡した例がある。当該児童は、2度にわたる過酷な練習中に走り方もふらふらしており、熱中症の前兆が見られ、また、児童が倒れた時に指導者が声をかけたが、大丈夫という返事が戻ってきたため、しばらくそのまま休ませていた。さらに、事態が悪化した際も、誰も熱中症に罹患していることに気がつかず、かえって保湿クリームを全身に塗布するなどし、適時に適切な処置をとらなかった。最終的に指導者の注意義務が懈怠していたとして賠償責任を問われ、5千万円にて和解した。この例にはいくつかのポイントがある。児童はふらふらしていたのにそのままにした、また大丈夫といっていたのでそのままにした、さらに熱中症をよく理解していない指導者だったために亡くなってしまった。

 テニス場で、コート出入口から被害者がコート外へ出ようとしたところ、ネットの重なっている部分のネット止めにつまずき転倒し、前歯等を一部折損した事例がある。これは施設の責任になる。きちんと止まっていればつまずかなかった。その部分を直すなどの予防ができていなかったので、使用管理設備の欠陥に問われた。

 トレーニング施設で、トレーニングマシンのウエイト調整ピンが外れて、ペダルが飛び出したところに足があたり、けがをした例がある。これは、施設の管理、もしくは指導者の責任が問われる。

 ゴルフ場での事例もある。ゴルフ場内で被害者が車両で走行中、ゴルファーのボールが飛来し、フロントガラスを直撃して破損した。被保険者のゴルフクラブでは、道路に面しているホールが数カ所あり、手直しによって、コースと道路の境界に設置しているネットフェンスを高くしたり、グリーンの位置を道路とは反対側に移動させたりする等の改造を常時行いながら安全性を高めていた。しかし、ボールがネットを超えたことは事実であり、被保険者の管理不足は否定できないものであり、対物賠償金として車両交換費を認定し、示談した。ゴルフ場は再発防止のために対応していたが、とんでもないところに打つゴルファーがいたということ。ガラスにぶつかった程度で良かったが人にぶつかることもある。改善が必要だ。 

 

    -被害者の救済、事故状況の確認、関係者への連絡-

 事故が発生した場合はどうするか。事故が全く無いということはありえない。被害者の救済として、応急処置、病院への搬送などがある。事故が起こった時にこの病院のこの先生に診てもらうと決めていることがあるが、その先生がいないこともある。だいたい3つくらい方法を準備しておいてほしい。被害者の救済が最優先だが、事故の状況の確認もしっかりしてほしい。

  参考として、判例等の動向を紹介すると、最近では、施設側、指導者等の注意義務を強く求める傾向にある。また、従業員の過失が認められれば、使用者責任が強くめられる


研修風景Ⅸ
研修風景Ⅸ

 

-監督者、指導者として事前に確認すべきこと-

 なぜ事故は起こるのか。監督者、指導者として事前に確認すべきことを紹介する。

指導体制は、常に変化に対応するために確認し新しく練り直すことが大切だ。また日程、プログラムカリキュラム等の指導内容の確認がある。緊急時の対応体制の確認も必要だ。何かあった時を想定して、病院だけでなく、両親にだれが連絡するかなども考えてほしい。結果的に指導責任ということになると、一番最初にどんな対応をしたかが問題として必ず出てくる。自分たちのせいではなくお子さんの責任だなどというと、大変なことになる。参加者の数やレベル等の確認も大切だ。適正な人数であれば見てあげることもできるし、レベルに応じて実施することで、ケガをなくすことにもなる。事故処理をしているときに、Aチームについていけなくてケガをしたということも多々ある。指導者として負う賠償責任に備える保険もたくさんある。スポーツ安全保険は安くて補償が充実しているので考えてほしい。みんなで危ないところはどこかを考え、ヒヤリハットで注意することで、事故を減らすことができる。 


研修風景Ⅹ
研修風景Ⅹ

 スポーツは楽しいものだ。子ども達に楽しい思いをさせたいと思う。そのために、ケガをさせてはいけない。またケガをさせた時には初期対応をきちんとしようということが大切だ。最大でいうと死亡させてはいけない。大出血しているのか、呼吸をしているのかを確認し対応する。

 熱中症の場合の対応は、頭と両脇を冷やして救急車を呼ぶ。実は低体温症というものがある。冷たい血液が心臓にまわると、心臓が止まってしまうことがあり、それは事故や熱中症で起きる。その場合は毛布などで体を暖めたり、手足をさすったりする対応が必要だ。こういうことも指導者の皆さんの頭に入れておいてほしい。事後処理をきちんとし、氏名、年齢、住所、どういう状態でどうなったかを救急隊にきちんと伝えていただければいい。それらの内容をまとめたハンドブックをつくったので、よく見ておいてほしい。

 事故が起きてからは、「言った、言わない」ということによるトラブルが大きい。状況を適切に説明することで、救急にしても、温和に対応してもらうことができる。



 回答者  倉 事務局長

 私はきたえーるの2階の事務所で仕事している。きたえーるは東京以北最大の体育館であり、いろいろな保険をかけている。利用している時に起こる事故について対応しているほか、地下鉄の通路として使っている人もおり、フローリングがぬれていてケガをして転んだということもある。そうしたことにも対応するために、施設として年間1千万円くらいの保険をかけている。

 皆さんはスポーツが好きで楽しんでやっているので、リスクマネジメントの一つとして事故が発生した場合のことを考えて保険に加入することについて理解していただきたい。会費に加え会場使用料を徴収するというと会費が高くなる、保険料も徴収すればもっと高くなる。しかし今日は、事例を説明して、事故が起こった時に、果たして代表者が賠償できるのか、という話をした

質問がありますか。回答できると思いますがもしこの場でできない事があれば、持ち帰り後日、回答いたします。またこの研修会のあといろいろあれば、スポリティファインでまとめていただければ、お答えはできる。

 

                

 

指導者として負う賠償責任に備える保険というものがあるのか?

そういう保険を用意している。指導者が保険に入っていて、指導者の責任で賠償責任が発生した場合、指導者の保険から被害者の方へ賠償できるように準備している。

 

最大でどれくらい補償されるのか?

1事故5億円、1名1億円まで補償される。

例えば、高齢者の方がボランティア活動をしていた時に指導していた子どもがケガをした。指導不足だといわれて賠償責任が発生した、という時にも対応できる。

花壇作成グループ、囲碁、将棋、編み物、詩吟などの人たちもこの保険に入っている。グライダーも入っている。保険加入について、グループの中で一度検討をされた方がいい。自分たちのグループをより楽しくするために、身を守ることも考えた方がいいだろう。

 

指導者という言葉が出ているが、任意団体では指導者の他にスタッフもいる。スタッフも対象になるのか?

スタッフも指導者の範疇と考えている。指導者の責任を問われればそのスタッフも対象となる。

 

保険料を支払うのはあくまでも個人でなく、団体の名前で団体が支払えばいいのか?

団体保険なので、5人なら5人のうちの誰か一人が代表者となり支払っていただければ、手続きを行う。全責任をその人が負うという意味での代表者ではない

 

多く人数が入っていた方がいいのか?

誰が当事者になるかわからない。多くの人を含めて入ってもらった方がいい。

 ボランティアで来ていた親御さんが協力してサッカーゴールを移動していたときに、グラウンドにいた、クラブに入っていない子どもがケガをして、訴えられたという例もある。

札幌である例では、選手だけでなく送迎にも関わる父兄もまとめて入っているというところがある。野球、サッカー、タグラグビーなどにそうしている団体が多い。

 

いろいろな団体に入っている人は、団体ごとに保険に加入しないといけないのか?

それぞれのスポーツごとに入ってもらうのが原則である。競技を限定することで危険性が低くなり保険料を安く抑えられている。加入用紙に運動全般と書く人がいる。総合型スポーツクラブでは、一つの団体の中でさまざまなスポーツに取り組んでいる例もある。加入いただいた場合には、どんなスポーツをしていくのか確認の電話をさせていただく。

 

剣道をしており、違う団体の子ども達が、出稽古に来ることがある。活動内容に出稽古と記載があれば、何かあった時にも保険がきくのか。

その団体が出稽古に行くことを活動内容として認めているのであれば、保険は適用されるが、団体が認めていないのに個人的に出稽古して何かが起こったという場合は、適用にならない。

 

指導者の賠償責任保険について、バレーボールやサッカーはディフェンスが伴う。その時にぶつかったりする。指導者もチームメートとして加わっていてメンバーと指導者がぶつかったという場合、賠償責任が伴うのか?その場合、指導しているわけではない。男性コーチと女性のメンバーだった場合はどうなるのか。

ケースバイケースである。バスケをしていて、眼鏡の子がバンドをしておらず、眼鏡が飛んで壊れた事例がある。眼鏡が飛ぶ可能性は親が予測できたはずだから指導者の責任は問われなかったというケースがある。

 

法律上の賠償責任が発生すれば保険料を支払うということは、裁判をして結果を得てから保険が支払われるのか?

裁判をすればこういう結果が出るだろうという考えで保険料を支払う。 

その場合の交渉窓口は保険会社になるのか?

保険会社になる。

 

保険会社として、示談は自分で対応するよう書いてある。訴訟になった場合の訴訟費用は?

当事者同士話してくださいというのが基本の示談交渉。保険ではそれを超えた弁護士同士の話し合いなどからの対応になるが、その弁護士費用なども保険で賄う。

 

今年から保険をBに変更したが、指導者の保険はCだとわかった。例えば今1000円払っているものを、追加で850円支払って切り替えることはできるのか。

途中からは保険内容を変えられないので、新たに加入していただくことになる。

 

ソフトテニスをしているが1つのコートで4人で競技をしていて、相手のボールが当たってけがをした。あてた人は保険に入っていなかった。当てられた人は、何か対応があってもいいのではないかと思っているようなのだが。

相手方が保険に入っていなければ相手方に請求できないので、当事者同士の話し合いになる。車と一緒で、相手が無保険なら、どうしようもない。

 打ったボールを歩行者にぶつけたら、賠償責任が発生し、保険も支払いできる。しかし、一緒にコートに入って競技をしていた場合は、当然考えられることなので賠償責任は発生しない。

団体によっては、保険加入を条件に登録が可能だというところもある。

  



スポリティファイン 顧問

    札幌市市会議員   小川 直人


スポリティファイン 顧問  小川直人
スポリティファイン 顧問  小川直人

 

   -加入に関する書類の準備などについても

        アドバイスをしてもらえると-

 昔はケガと弁当は自分持ちということだったが、今の話を聞いて、ケガをすると高額な賠償を求められることがわかった。どこまでの責任かということは難しいが、そういう世の中になっている。指導者に重い責任が問われることで担い手がいなくなってしまうのなら、スポーツの衰退につながる。保険を活用してスポーツの振興につながればいい。一方、チーム全体で保険に加入するとなかなか金額がはる。今後加入に関する書類の準備などについてもアドバイスをしてもらえるといい。